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スーパーシェルパと怪しい仲間達

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2016年 05月 18日

シェルパのワンウェイクラッチ交換

以前にシェルパ1号車、2号車のワンウェイクラッチを交換した事がありました。

まだ憶えているうちに記事化しておこうと思います。



シェルパのワンウェイクラッチですが、そもそもワンウェイクラッチって何?という方もいると思うので簡単な解説を。

◆ワンウェイクラッチって何?
シェルパはご存じの通り、セルモータの動力をギヤでクランクに伝え回転させてエンジンを始動します。
このままだとエンジンが始動すると、エンジンの動力が逆にセルモータに伝わってしまいます。
そこで、ワンウェイクラッチの登場です。
ワンウェイクラッチは、リング状の形状をしていて、内周と外周で一定方向のみ力を伝えて、反対方向では空回りする仕組みになっています。
ですので、エンジンが始動していないセルモータだけが回転している時はクランク軸(内周)よりセルモータ側(外周)の回転が速いので力が伝わり、エンジンが始動してクランク軸(内周)の回転速度がセルモータ側(外周)より早くなることでワンウェイクラッチの働きが変わり、セルモータにはエンジンの動力が伝わらなくなります。

解説はこれくらいとして、最初にお断りしておきます。
この整備には
・多数の専用工具
・ある程度の整備技能
が必要になります。
もし、自信がないな・・・と思ったら、迷わずバイク屋に依頼しましょう。
その方が幸せになれます。

◆必要工具・用具
この作業を実施するにあたり必要になる標準工具以外の専用工具・特殊工具ですが
・フライホイールプーラ(代用工具あり。下で記載)
・フライホイールホルダ(ここで使っているのはストレートのユニバーサルプーリーホルダー)
・精度の高い6角レンチ(KTCとかのマトモなメーカーのもの)※必要サイズ忘れましたw
・トルクレンチ(10~50N・mくらいまでと、20~110N・mくらいの2種類あるのが望ましい)
・ガスケット除去用スクレパー等
・ロングスリーブの対辺8mmのソケットレンチ
・高強度ネジロック
・ラッカーシンナー等の溶剤(ネジロック除去用、無くても可かな)
・適当な鉄パイプ
・サービスマニュアル
が必要になります。

◆交換時期
ワンウェイクラッチの交換時期ですが、エンジン始動時に『ギギャー』とか『ガガッ!』などと少しでも、たまーにでも異音が出たら即交換時期です。
今までの経験上と情報収集の結果から、概ね3万km程度で不具合が発生するようです。
異音がする=どこかに異常摩擦や異常振動が加わって音が出ますので、放置すると本来交換の必要がない部品(カップリングギヤやカップリング)にまで被害が及びます。ですので、異音が出たら即交換!が基本になります。

◆必要部品
・ワンウェイクラッチ  ※年式により部品が異なる
97~01年式:クラツチ(ワンウエイ) 13194-1084 ¥5,885
02~07年式:クラツチアツシ(ワンウエイ) 13193-0007 ¥5,412
・トルクリミッターカバーガスケット  ガスケツト,キヤツプ  11060-1641  ¥432
・左カバー用ガスケット  ガスケツト,ゼネレ-タ カバ-  11060-1326  ¥886

尚、yantaさんより02年式以降のセットでは不具合がしにくいとの情報があり調査したところ、確かに不具合発生率が低いようです。よって、01年以前のモデルでワンウェイを交換する場合は以下の通り部品の変更を実施するのを推奨します。
クラツチアツシ(ワンウエイ) 13193-0007 ¥5,412
カツプリング 42034-1181 ¥5,533
※ギヤコンプ,ワンウエイ クラツチについては共通部品ですので、摩耗が見られる場合を除いて交換の必要はありません。

部品リスト上はこれを固定する6本のボルトの部品番号が異なりますが、01年までのモデルは単純にボルトのみ、02年以降の部品は部品購入時に緩み止め剤が塗布されたものになります。
よって、手順の通りボルトを十分に脱脂して緩み止め剤を塗布することで対応可能です。

◆交換手順
ここでは交換の手順のみです。締付トルク等はサービスマニュアルで確認しましょう。
0)エンジンオイルの抜き取り
1)スプロケットカバーの取り外し
2)スプロケット部配線押さえ金具の取り外し
3)ニュートラルスイッチからの配線切り離し
※1~3はやらなくても可能だと思いますが、やっておいた方が無難です。(個人の感想ですw

4)トルクリミッタカバー(セルモータから見て1つめのギヤが入っている部分)の取り外し、ガスケット処理

5)トルクリミッターの取り出し
トルクリミッターの両側にはワッシャーが1枚ずつ入っています。オイル等でカバーやケース側に
張り付いている事もありますので、よく確認して部品の紛失に注意します。
シェルパのワンウェイクラッチ交換_c0212385_16514889.jpg


6)エンジン左カバーの取り外し、ガスケット処理
ここまですると、フライホイール(写真の丸いやつ)が見えます。
シェルパのワンウェイクラッチ交換_c0212385_1653142.jpg


6.5)カップリングギヤの取り外し
フライホイールの右上にあるギヤを外します。
例によってワッシャが付いているのと、ギヤには方向性があるので注意します。
組み付けられている状態(ギヤの歯の形状に注目)を確認してメモしておきましょう。

7)フライホールホルダの組み付け
フライホイールホルダを組み付ける際、写真のようにフライホイール側面に付いているピックアップ用マグネット(薄べったいチップみたいなもの)を必ず避けて組み付ける必要があります。
シェルパのワンウェイクラッチ交換_c0212385_1991263.jpg

これを怠って作業をすると、フライホイールからマグネットが剥がれてしまいます。剥がれたら最後、エンジンは絶対にかかりません。
フライホイールホルダを組み付ける際には、フライホイール表面を脱脂してホルダーが滑らないようにした方が安全です。

8)フライホイール固定ボルトの取り外し
フライホイールを固定している中央のボルトを取り外します。
これが猛烈に強く締まっています(笑)
インパクトレンチが用意できるなら、絶対に用意するべきレベルです。
フライホイールホルダを押さえながらボルトを回すのは大変なので、40cm程度の鉄パイプなどで延長して地面等で固定してから作業をすると疲れなくて済みますw

9)フライホイールの取り外し
フライホイール固定ボルトを外したネジ穴にフライホイールプーラを入れてフライホイールを外します。
このプーラですが、残念な事に高価な上に用途がこれくらいしかありません。
そこで別のもので代用です。それは・・・・
KLX250のリアアクスルシャフト!!w
もちろん、設計的には工具として適正ではありませんが、
・ネジピッチが合う
・高強度の材料が使われている
という点でバッチリです。しかも安価(笑)
シェルパのワンウェイクラッチ交換_c0212385_16552484.jpg

(※ちなみにスバルやホンダ(4輪)用のドレインボルトM20/ピッチ1.5mmでも合うらしいです。が、ここでは大きいトルクをかけるので材料レベルで強度の高いアクスルシャフトを推奨)
理屈的にはフライホイール側にねじ込み締め上げる事で、ネジの奥にいるクランクシャフトを押してフライホイールを引きはがす、という事をやりますので機能としては満たしているはず。
このアクスルシャフトをフライホイール固定ボルトを外したネジ穴部分にねじ込みます。ネジ部にはスレッドコンパウンドかエンジンオイルを塗布しておくとネジのダメージを抑制できます。(スレッドコンパウンドを使った場合は、フライホイール取り外し後に除去します)
アクスルシャフトをねじ込み締め上げると『バキン!』という盛大な音と共にフライホイールが外れます。
フライホイールを外すと、シャフトに小さい溝(キー溝)があって、そこに小さい半月状の部品(キー)が入っています。これを紛失しないように注意します。
シェルパのワンウェイクラッチ交換_c0212385_16565123.jpg

なお、フライホイールホルダは付けたままにしておきます。
シェルパのワンウェイクラッチ交換_c0212385_16571524.jpg


10)ワンウェイクラッチの取り外し
フライホイールを引き抜くと、裏側に大きめのギヤが付いています。これはそのまま引き抜けます。
シェルパのワンウェイクラッチ交換_c0212385_16583074.jpg

次に6本のキャップボルトで止まっているリング(カップリング)を外しますが、これまた強く締まってる+ネジロックで固定されています。かなりの強い力で回すので、精度の高い6角レンチが必要になります。
また、L型のレンチでは力点が偏芯しますので、できればTレンチの先端に6角レンチのビットを装着できるものを使った方が安全です。
シェルパのワンウェイクラッチ交換_c0212385_16591150.jpg

ボルトを外したら、ボルト側、ネジ穴側に残ったネジロック剤をラッカーシンナー等の溶剤で除去します。
これでワンウェイクラッチが取り出せます。この時、ワンウェイクラッチがどの方向に回転するのが正解なのか確認しておきましょう。(確かワンウェイにリムがあって1方向しか組めなかったような気はしましたが・・・)
シェルパのワンウェイクラッチ交換_c0212385_1992029.jpg

ちょっと分かりにくいですが、ダメになっているものは写真の右上のように中のコマがダラーンとしていたり、外したとたんにバラバラと取れてしまいます。

11)新品ワンウェイクラッチの組み付け
組み付け部分にゴミ等が付いてない事を確認して新品のワンウェイクラッチを組み付けます。
ワンウェイ組み付け時には接触面にエンジンオイルを塗布します。
リング(カップリング)を組み付け、ボルトに高強度ネジロックを塗布して規定のトルクで締め付けギヤを挿入します。
シェルパのワンウェイクラッチ交換_c0212385_1659378.jpg


12)フライホイールの組み付け
クランクシャフトとフライホイールにゴミ等が付いてない事を十分に確認(重要)してからキー溝にキーを付けてフライホイール側の溝と一致している状態で組み付けます。キーの出っ張りは小さいので十分に注意します。
この際、シャフトの接触部分にエンジンオイルを塗布します。
フライホイールをシャフトに付けたらキーが正確に組み付けられているか、少し回転させて確認します。位置が合ってないと、フライホイールが簡単に外れてしまうはずです。

13)フライホイール固定ボルトの締め付け
フライホイールホルダを固定(ステップ側に引っかけてもOK)して、固定ボルトを組み付けて規定トルクで締め付けます。
この際、固定ボルトのネジ部にエンジンオイルを塗布します。
か~な~り強い力で締め付けますので、頑張って締めましょう(笑)
シェルパのワンウェイクラッチ交換_c0212385_1703856.jpg

規定トルクに到達したら、この作業は終わったも同然です。

13.5)カップリングギヤの組み付け
ワッシャを忘れないように注意してカップリングギヤを組み付けます。
ギヤには方向性があるので注意します。
また、ワッシャの組み忘れにも注意しましょう。

14)エンジン左カバーの組み付け
新品のガスケット両面にエンジンオイルを塗布(次回脱着時にガスケットが外れやすくなるおまじない)してエンジンカバーを組み付け均等に対角線上?のボルトを順番に締め付けます。

15)トルクリミッタの組み付け
外した時のワッシャを忘れないように注意し、トルクリミッタに隠れる位置のボルトを締め忘れないように注意して組み付けます。

16)トルクリミッタカバーの組み付け
これもガスケット両面にエンジンオイルを塗布してから組み付けます。

17)配線の復元とスプロケカバーの組み付け
元通り組み付けます。

18)エンジンオイルの給油
既定値通りのエンジンオイルを入れましょう。

これでワンウェイクラッチの交換は完了です!

2016-05:写真追加

◆最後に
記事には各締め付けトルクが書いてありません。
はい、わざとです。
この記事の目的は、サービスマニュアルじゃ伝わりにくい部分をカバーするための記事です。
なので、必ずサービスマニュアルを主に確認しながら作業をイメージしてもらいやすいように記事にしています。



by nossi_ck | 2016-05-18 20:45 | 整備・改造 | Comments(5)
Commented by yanta at 2020-07-01 10:00 x
色々と参考にさせてもらってます。

自分のシェルパ(1997年式)も先日ワンウェイクラッチの滑りと思われる症状が出始めました。そこでショップに問い合わせたところ、交換するなら初期型ではなく、最終型のワンウェイクラッチにした方が耐久性が上がっているので良いとの話でした。
オンラインのパーツリストを調べてみると、2007年式の方はワンウェイクラッチ、カップリング、固定ボルト、スターターギアがセットで変更になっているようで、全部セット交換するとパーツ代だけで2万円を越えてしまいますが、どのくらい耐久性が上がっているのか不明なので、現在費用対効果の点で旧型のワンウェイクラッチのみ交換にするかどうか迷っています・・・

耐久性に関して、何かご存じでしたら教えていただきたいところですが、どうでしょう?
Commented by nossi_ck at 2020-07-02 13:52
> yantaさん
初めまして、管理人です。
さて、ワンウェイの部品について確認してみました。
ワンウェイ本体とカップリングは確かに部品変更になっていますが、カップリングギヤは変わっていないようです。
おそらく、ワンウェイの内径は変わらず外径に関わる部分が変更になってカップリングの金具が変更になったのではないかと考えられます。
新しいワンウェイに変更する場合はワンウェイとカップリングだけで問題なさそうですね。
また、カップリングの固定ボルトですが、部品番号の変更が通常のボルト番号系列から別管理の部品番号になったあたり、通常のソケットボルトから、ネジロックが予め塗布されたソケットボルトになったのではないかと思われます(未検証)
カップリングがボルトで締結される相手のフライホイール側は変更がないあたり、固定穴ピッチは変わっていないので、後期のカップリングを採用する場合は
・ワンウェイ本体
・カップリング
の2つを変更すれば問題ないようです。
ボルトを変更せず使用する場合は、ボルト側、フライホイール側のネジ部分を十分に脱脂した上で、必ず高強度ロックタイトを使用して組み付けて下さい。
耐久性についてですが、弊社では流石にデータを持ち合わせていないですが、あちこちの意見を見る限り、耐久性が向上しているように思われます。

ちなみにワンウェイが変更されたのは02年式からのようです。
Commented by yanta at 2020-07-02 19:57 x
丁寧な説明、ありがとうございます。
ボルトはネジロック塗布済みというのは、品番で画像検索をすると確かにそういう画像が出てきたので、そうなのかもしれませんね。

こちらでもカワサキ専門の店で聞いてみたところ、スターターギアもセット交換ということらしいです。おそらくワンウェイの噛み合う部分の強化でもされているのかな・・・?

耐久性はかなり上がるとのことで、その店では新型のワンウェイクラッチがダメになって交換という事例はまだないと言っていました。

ということで、段々セット交換の方に気持ちが傾いているところです・・・w
Commented by 白髪ジジイ at 2024-01-14 21:57 x
困るとマニュアルよりこっちによく来ます。私のシェルパも結構異音がしてきたので交換しようとカワサキのショップに行った所、「川崎の在庫が4つしかない」という事で取り急ぎ注文しましたが、残りは3つの計算。無くなると作ってくれるのでしょうか?心配のし過ぎだといいんですが・・・(^^;)
Commented by nossi_ck at 2024-01-25 16:48
>白髪ジジイさん
初めまして、管理人です。
まずは最初にサービスマニュアルは見て下さい(笑)
ワンウェイの部品に関しては、メーカ在庫がなくなれば製造メーカ(NSK等)から入るはずなので、それほど心配しなくても大丈夫かと思います。
カワサキ的に古い規格に分類されるはずなので、この車種に対して取り扱いが終了したとしても、後期型H6(2002年型)以降のワンウェイクラッチとカップリングに換装すれば継続して保守可能です。


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